未来の祀り・ふくしま ゆるゆるフィールドワークノート その3 芸能と鎮魂

 

「未来の祀り・ふくしま 2015」開催まで、あと2か月ほどになってきました。

 

「震災」「鎮魂」「芸能」「祀り」……これらのキーワードがどう結びついてくるのか?

 

イベント本番にむけた予習的フィールドワークにお付き合いください。(及川俊哉)

 

 

 

 

今回は、芸能と鎮魂の関係について、考えてみたいと思います。

わたしたち現代人には、芸能と鎮魂とはいっけん無関係に見えます。

昔の人はこのふたつをどのように結びつけて考えていたのでしょうか?

 

今回も折口信夫の考えに耳をかたむけてみましょう。

 

日本では、芸能と鎮魂との関わりについて、

①悪霊を追い出し、よい魂を目覚めさせる効果

②傷ついた魂へのヒーリングの効果

③災害をふせぎ、亡くなった人々の霊を供養する効果

などがあると考えられていました。

 

①悪霊を追い出し、よい魂を目覚めさせる効果について

 

……昔の人は、自分たちが先に住んでいた場所に、人間たちが後から入ってきたので、

野山の精霊たちが怒っていると考えていました。

 

村の生活は、悪意を持った精霊にとりかこまれていると恐れていたのです。

 

そこで、昔の人は、これらの精霊をおさえつけたり、怒りをおさめてもらったりして、

逆に自分たちに祝福に来てもらえないかと考えました。

 

こうして、精霊たちは人間を祝福しにくるようになり、次第に人間も彼らを神とあがめるようになりました。

 

これが日本の「まつり」のはじまりです。

また、訪れた神や精霊が祝いの席で舞いを舞ったり歌ったりすることが、

「芸能」になっていきました。

 

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(福島稲荷神社の「力石」)

 

②傷ついた魂へのヒーリングの効果について

 

さて、昔の人が考えていた「鎮魂」といま考えられている「鎮魂」とは、すこしズレがあります。

 

「鎮魂」とは、もともとは外からよい魂をむかえ、

人間の体に「鎮定」(ぴったりと安定させ落ち着かせる)させることでした。

(「魂」のイメージも現代人とは違っています。伸びたりちぢんだり、人間の体に注ぎ込まれたり、揺すると増えたりするなど、霊的なエネルギー、「気」のようなものだとも考えられていました)

また、同時に魂がふわふわと体を離れていきそうになると、邪気や悪い霊に触れて病気になるので、これを防ごうとすることでもありました。

(沖縄ではこういう精神状態を「マブイ(魂)を落とす」と言います)

 

 

 

鎮魂の方法として日本の伝統的なものに「反閉(へんぱい)」があります。

 

「反閉」とは、大地を踏みしめる呪術です。

 

『古事記』にアマテラスとスサノオがけんかをする場面があります。

 

スサノオの行為に怒ったアマテラスは天岩戸に閉じこもってしまい、

世の中が真っ暗になってしまったので、神々が相談をして、

アメノウズメに踊りを踊らせます。

 

アメノウズメはこの時、桶を伏せて踏み、鉾を突き立てて踊ったと書かれています。

 

これは、大地の中に眠っている魂をめざめさせ、外に出し、

怒り、傷つき、引きこもっている者の体に送り込む呪術がもとになっている、

と折口信夫は述べています。

 

また、大地を踏むことは、悪い魂を押さえつけ、再び出てこられないようにすることだ、

とも考えられていました。

 

つまり、「鎮魂」とは傷ついた魂へのヒーリングの効果をもつものだったのです。

 

ちなみに、「おどり」とは、ぴょんぴょんとびあがることを繰り返す動作、

「まい」とはくるくると回る動作をさします。

「かたつむり」のことを「まいまい」とも言うのは、

カラのウズの模様からきています。

 

「反閉」を行うのは主に陰陽師の仕事とされていました。

 

「反閉」のやりかたは、まず口の中で呪文をとなえながら、

中央と、四方で足踏みをする、というものでした。

四方に進むことで、どこからも悪いものが入ってこないようにする意味がありました。

 

中国では似た動作をする呪術に「禹歩(うほ)」があります。

これは、古代中国の「夏(か)」王朝の「禹王(うおう)」が、

治水工事をし、大地を踏み固めたという故事からくるものです。

「禹歩(うほ)」のやりかたは北斗七星の形に地面を踏んで歩くのだと言われています。

 

このように、昔の人にとっては、踊りを伴う芸能は、

良い魂を地面に鎮定させ、悪い魂を押さえつける呪術的な行為でもありました。

 

③災害をふせぎ、亡くなった人々の霊を供養する効果について

 

関西に伝統的に伝わる「鎮花祭」という行事があります。

これは、春、花が散る頃の季節、だんだん夏が近づいてくると、

悪い病気が流行り出したり、水害が襲ってくるので、

それを鎮めるために行われた行事です。

「鎮花祭」は、おどり手の群舞に悪霊を巻き込んで、外に連れ出してしまうものと考えられていました。

 

踊りを踊る人々の群れは、たいへんな神力の現れだと考えられていたのです。

 

 

盆踊りも、祖先の霊をさそい出して供養する踊りです。

亡くなった魂がかえってくる目印になるように火を焚いたり灯篭を飾ったりします。

 

 

相撲、柔術、剣術などの武道も、芸能と近いものがあると折口信夫は述べています。

 

お相撲さんが四股を踏むのは、「反閉」の考えかたからきていますし、

お相撲さんに抱っこしてもらうと赤ちゃんが丈夫に育つ、

などというならわしは、折口信夫のいう「芸能」の伝統から理解されます。

 

このように、日本の「芸能」は日本の伝統のさまざまなジャンルに関わってきています。

 

さて、以上みてきたような効果があるとすれば、

東日本大震災後の福島で、神楽が演じられることは、

まさにぴったりだと言えるのではないでしょうか。

8月23日は、みんなが楽しく踊りながら、古代人のような素朴な気持ちになって、

復興と鎮魂を祈るイベントになればいいですね。

 

(参考文献 折口信夫「日本藝能史序説」「日本藝能史六講」「盆踊りと祭屋台と」)