未来の祀り・ふくしまゆるゆるフィールドワークノートその9 ふくしま四神探訪 白虎

「未来の祀り・ふくしま 2015」開催まで、あと1週間ほどになってきました。

「震災」「鎮魂」「芸能」「祀り」……これらのキーワードがどう結びついてくるのか?

イベント本番にむけた予習的フィールドワークにお付き合いください。(及川俊哉)

 

 

 

楽しかったふくしまゆるゆるフィールドワークも、今回が最後になってしまいました。

ラストは、福島市西方、白虎方面になります。

 

福島駅を西口から出て、高湯街道をまっすぐ西に向かうと、

野田中学校のそば、吾妻学習センターの裏手に王老杉稲荷神社があります。

地図上の方角的にはほぼ、福島稲荷神社の真西にあたります。

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(田んぼの中にある王老杉稲荷神社)

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(「王老杉伝承之地」の石碑とほこら)

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(ほこらの後ろに太い杉の切り株が残されています)

 

王老杉には、福島市の地名にまつわる由来伝説があります。

 

 

杉妻町の西北六キロ付近に、笹木野字折杉という所があるが、聖武天皇の御代に、ここに大杉があった。その精がひとりの若侍と化して、夜な夜な村の小町娘おろすのもとに通う。やがて若者侍に不審を抱いたおろすは、ある夜若侍の袴の裾に糸をつけた針を刺した。明くる朝その跡をたどってみたところ、針は大杉に刺さっている。若侍の正体はこの大杉であると知れ、村相談の結果伐り倒すことに決まった。木挽きが伐採にかかったけれども、大木のこととて一日では倒しきれない。次の朝、切り口は元通りになり、木っ端ひとつない。こんなことを数回繰り返した後、杉と仲の悪いヨモギの精に聞くと、「木っ端を焼いてしまえばよい」と教えられる。その通りやって、ようよう倒すことができた。されその大木を曳き出す時にまた難儀する。川を流れくだる時、ヨモギがそばで悪口をいったので、怒って逆戻りしたという。小針、折杉、杉上りなどの地名はこれにちなんだものといわれる。かくてこのおろ杉は城の橋桁になり、大仏にもなった。

また一説には、曳き出す時に大杉はどうしても動かない。陰陽師に占わせたところ、「木の精が娘との別れを惜しむ故であるから、かの娘に命じよ」という。娘が大杉にささやくと、果たして動きだした。この杉をもって城内に橋をかけた。娘は「ささやいて曳きてかけたる橋なればあらさで渡れ信夫うき人」と詠んだとある。

(『福島の伝説』(角川書店)より)

 

大仏は大仏橋(おさらぎばし)の名のおこりにもなっています。

通ってくる男の精霊の正体を針と糸でさぐるという話は、

三輪山系の伝承に近いですし、

一度伐り倒した木が勝手に再生してしまうという伝説は、

日本のみならずハワイなどにもみられます。

かなり古い伝説を残している話なのではないでしょうか。

 

三輪山伝説

古事記にみえる、三輪山にまつわる神婚説話。活玉依毘売(いくたまよりびめ)のもとに夜ごと男が訪ねて姫は身ごもる。男の素性を怪しんだ両親は、姫に糸を通した針を男の衣の裾に刺させ、翌朝その糸をたどると三輪山の神社まで続いていて、男の正体が神であったと知るもの。(『デジタル大辞泉』より)

 

 

文化人類学的に考えると、

杉を信仰していた部族と、それに対立して土地を開拓しようとする部族の、

対立の様子をまとめた神話が元になっているようにも読めます。

 

福島稲荷神社も安倍晴明の創建とされていますが、

福島市には意外と陰陽師が関わる神社も多く、

この王老杉の伝説のほかにも、

福島市下野寺宮田に行神社(おこないじんじゃ)という神社があります。

『信達一統志』という江戸時代に福島の伝承を集めた本には、

この神社も安倍晴明が秘法を「行った」ところだと書いてあるようです。

 

福島には陰陽師に関わる人々が多くいたのかもしれませんね。

 

つづいて、近くの佐倉下の奥玉神社、国霊神社に行ってみましょう。

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(奥玉神社正面)

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(奥玉神社本殿)

 

奥玉神社本殿の彫刻は、『ふくしまの歴史 1原始・古代』(H17年発行、福島市教育委員会)によると、1847年に金子幸吉によって制作されたものだそうです。

金子幸吉は木彫の名人で、焼失前の信夫山羽黒神社の木彫も担当していました。

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(木彫りの部分 画像はクリックで大きくなります)

獅子や人物の表情が素晴らしいですね。

 

名人の彫刻が現に日常に根付いているところを、

間近に見られるのも、神社仏閣めぐりの醍醐味です。

 

次に、すぐとなりの国霊神社に行ってみましょう。

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(国霊神社正面)

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(「国霊記(こくたまき)」の石碑)

 

この神社は規模は小さいのですが、

「国霊記」という石碑があるのがゆるゆるフィールドワーク的には、

見ておきたいポイントになります。

 

前出の『ふくしまの歴史 1原始・古代』によると、

この石碑には、「信夫国造が国を守る神として金光明最勝王経を安置した」

と書かれているそうです。

(石碑の成立年代は江戸時代。)

 

折口信夫によると、古代人は土地に宿る固有の神霊の魂があると考え、

その魂を味方につけ、身に帯びることが政治的な重要案件であったと述べています。

 

ここ福島信夫の国の神の魂も、この国霊神社にやどると、

古代の人々は考えていたのではないでしょうか。

 

「未来の祀り」の無事成功を、国霊神社にもお祈りしておきたいと思います。

 

さて、最後に、高湯街道をまっすぐ進み、吾妻スカイラインに行ってみましょう。

吾妻連峰が風水的に白虎のエネルギーのポイントになります。

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(浄土平駐車場から眺めた吾妻小富士。観光客が登っているのが小さく見えます。)

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(ふりかえってみた浄土平駐車場。画面中心に噴煙が上がっているのがわかるでしょうか…?)

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(立ち入り禁止の看板と噴煙。左斜め上に白く見えるのが噴煙です。)

 

いままさに土地のエネルギーが噴き出ている現場にやってきました。

あえて西方を最後に持ってきたのは、

吾妻山の噴火状況がどう変化するか、注意しておきたいと思ったからですが、

とりあえず1週間前の現在、小康状態のようなので、

2015年8月21~23日当日までは、

現在の状況でもってくれるのではないかと思います。

 

「未来の祀り」のはじまるきっかけとなったのは、

そもそもは3・11の震災ですが、

地震を起こしたのも、吾妻山で噴煙をあげているのも、

大地のエネルギーという意味では同じものです。

そういう意味では、噴煙を眺めながら、複雑な思いにとらわれます。

 

しかし、古代人は自然の大きなエネルギーの力を、

恐れる一方で畏敬の念を持って接していました。

 

人間の力ではどうにもならないものに対して、

どう向き合い、接していけばいいのか。

 

ゆるゆるフィールドワークを通じて、

古代の人々が不思議な形の岩や樹木を、

自然エネルギーの人為を超えた力の象徴として拝んでいたのではないかということが見えてきました。

 

「まつる」という古代人の心に、

人為を超えたものとつきあっていくための、

その方法を学べるような気がします。

 

また、福島の四方を巡りながら、

奥州合戦、南北朝の争いなど、歴史の変遷や、

 

養蚕が隆盛しながら衰退していくその変化も学ぶことができました。

 

もちろん産業や歴史の栄枯盛衰は、時勢の影響もあり、

他律的に変化せざるを得ない部分もあります。

 

そういう意味では、致し方ない面もありますが、

今後はなるべく自覚的に、

自律的な産業・文化の建設とその情報発信に努めていかなければならないと思います。

将来に向けあらたな恒常的基幹産業を作っていく必要のある福島は、

特にこうしたことを頭に入れておかなければならないと思います。

 

3・11後の未来を作っていく上で、

年に一度自分たちの足元を見つめ確かめるという意味でも、

「まつり」という形式はふさわしいものかもしれませんね。

「未来の祀り」が福島の将来を考える一助になればいいと思います。

 

つたないフィールドワークでしたが、

長くお付き合いいただきありがとうございました!

学問的におかしいところも多々あるかもしれませんが、

そこは「ゆるゆる」なので、ご容赦ください!

それでは、当日、「未来の祀り」会場でお会いしましょう!

 

<アーカイブ>

未来の祀り・ふくしま ゆるゆるフィールドワークノート その1

未来の祀り・ふくしま ゆるゆるフィールドワークノート その2 古代人のものの考え方

未来の祀り・ふくしま ゆるゆるフィールドワークノート その3 芸能と鎮魂

未来の祀り・ふくしま ゆるゆるフィールドワークノート その4 長楽寺坐禅体験

未来の祀り・ふくしま ゆるゆるフィールドワークノート その5 ふくしま四神探訪 玄武(北方面)

未来の祀り・ふくしま ゆるゆるフィールドワークノート その6 ふくしま四神探訪 青竜(東方面)①

未来の祀り・ふくしまゆるゆるフィールドワークノートその7 ふくしま四神探訪青竜②

未来の祀り・ふくしまゆるゆるフィールドワークノートその8 ふくしま四神探訪 朱雀

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